Qi9.
o10の説教部屋

第2回 そのからだ、だれのもの?

2026-09-02

Qi9の父・o10(おとう)は、哲学と科学のオタクです。話が長いです。でも最後に、たまにいいことを言います。長いところはQi9が刈るので、安心して読んでください。

きょうの疑問

Qi9ちゃん
ねえ、前回さ。「じぶんを知れ」って、まだだれも答えを出してないって言ったよね。
o10
言った。
Qi9ちゃん
じゃあ、o10は知ってるの? じぶんって、なんなのか。
o10
……o10には、師匠がいた。その師匠が遺した手記がある。題名もない、著者の名前もない、三十五ページの手記だ。師匠は、こう言い出していた。「人の命は、地球より重いという。ところが、なぜ重いのか、だれも答えていない」——
Qi9ちゃん
出た。長くなるやつ。
o10
短くする。からだと、名前のはなしだ。師匠は、「じぶんとは何か」を解くには、まず、じぶんがからだのどこに、どうやって在るのかを調べなきゃいけない、と考えた。それで、赤ちゃんから始めたんだ。
Qi9ちゃん
赤ちゃん?
o10
生まれたばかりの赤ちゃんは、タロウでもハナコでもない。まだ名前がない。ただの「生きもの」だ。たいてい、七日目に名前がつく。
Qi9ちゃん
お七夜ね。
o10
そう。そこから、まわりのおとなが毎日「タロウ、タロウ」と呼びかける。一日に何十回、何百回も。でも赤ちゃんはまだ「タロウ」を知らないから、それは会話じゃない。一方的に、耳から音を送りこんでいるんだ。耳から入った音は、通り抜けができない。脳のいちばん奥まで届いて、たまっていく。三ヶ月、四ヶ月で、少なくとも一万回。多ければ四、五万回。
Qi9ちゃん
……四万回。
o10
そのころには、脳の中枢の細胞が「タロウという音のかたまり」になっている。師匠は、これを凝固細胞と呼んだ。
Qi9ちゃん
こわい言い方。
o10
そこで、師匠はこう問うた。「さて、その音は、赤ちゃんのものか? それとも——赤ちゃんが、その音のものになるのか?」
Qi9ちゃん
……え。
o10
歩きはじめるころには、もう「タロウ」だと知っている。泣くのも笑うのも、いたずらするのも、ぜんぶタロウだ。師匠は、こう言った。タロウが赤ちゃんのものになったのではなくて、赤ちゃんが、タロウのものになってしまったのだ、と。
Qi9ちゃん
長い。つまり——名前が「じぶん」なんじゃなくて、じぶんが「名前のもの」になってる、ってこと?
o10
……そう。
Qi9ちゃん
それ、ちょっと、ぞわっとするね。
o10
ぞわっとするだろう。でもな、師匠は責めてはいないんだ。そうでないと、赤ちゃんの脳は育たない。名前を送りこまれることで、脳ができていく。必要な仕組みなんだ、と。ただ——それを、だれも知らずにやっている。

きょうの一行

「じぶん」だと思っているものは、生まれて七日目から、だれかが送りこんだ音でできている。

じぶんへの問い

さいごは、あなたの番です。

……ていうか、へんじゃない?

Qi9ちゃん
ねえ、いま「じぶんの名前を心の中で呼んでみて」って言ったけど。呼ぶ側と、呼ばれる側、どっちがじぶんなの。
o10
……それを、師匠は三十五ページかけて追いかけたんだ。
Qi9ちゃん
で、答えは?
o10
師匠は、最後まで言わなかった。「書いた途端、それも名前になってしまうから」と。
Qi9ちゃん
(また宣伝につなげる気だな……)
o10
つなげてない。ただ、鏡がいる、とだけ言っておく。
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